経口補水液(Oral Rehydration Solution:ORS)は、下痢や嘔吐で失われた水分と電解質を補うため、ブドウ糖とナトリウムなどの組成を調整した飲料だ。急な下痢では、原因を家庭で決めることより、意識がはっきりして飲み込めるか、危険な症状がないかを先に確かめる。

世界保健機関(WHO)は、下痢では水分とナトリウム、塩化物、カリウムなどが失われ、補えない時に脱水へ進むと説明し、経口補水塩による補水を主要な対応に挙げている。ただし、重い脱水やショックでは点滴が必要になるため、自宅で飲ませ続ける場面ではない。

先に判断する119番と早期受診

成人で突然の激しい腹痛、激しい腹痛が続く、便に血が混じる、真っ黒い便が出る場合は119番へ連絡する。 子どもでは、激しい下痢や嘔吐で水分が取れず意識がはっきりしない、激しい腹痛で苦しむ、嘔吐が止まらない、血便がある場合も救急車を呼ぶ目安になる。厚生労働省の「こんな時は迷わず119へ」は、これらを成人と子どもの救急車要請の兆候として示している。呼びかけへの反応が鈍い、普段どおりに呼吸できない、けいれんがある時も、口から飲ませず119番を優先する。

少量の水分も保てない、尿が明らかに減る、口や唇が乾く、立つと強くふらつく場合は早めに受診する。 補水を試しても吐き続ける時は、飲む量を増やして解決しようとしない。血便、発熱、繰り返す嘔吐、強い腹痛が重なった場合も同じだ。

子どもは半日以上尿が出ない、泣いても涙が出ない、ぐったりする時点で急ぐ。 こども家庭庁の感染症対策ガイドラインは、水分が取れない、唇や舌が乾く、半日以上尿が出ない、尿が少なく濃い、血液・粘液・黒っぽい便が出る、けいれんがある状態を至急受診の目安に挙げる。乳幼児は変化が速いため、回数だけで待つかどうかを決めない。

ソファに座り額に手を当てる体調不良の人(イメージ)

飲めるなら一口ずつ間隔を空ける

意識がはっきりし、むせずに飲み込めるなら補水を始める。一度にコップ一杯を飲み切らず、一口ずつ間隔を空ける。吐き気がある間は、保てる量から回数を重ねる。英国のNHSは、成人と子どもの下痢・嘔吐で十分な水分を取り、吐き気がある時は少量ずつ飲むよう案内している

飲んだ量、下痢と嘔吐の回数、尿の回数と色、体温、意識や活気の変化を記録する。尿が普段に近づき、口の乾きが改善するかを追う一方、尿がさらに減る、ぐったりする、飲んだ分を吐き続ける場合は家庭での補水を打ち切って受診する。

厚生労働省の「抗微生物薬適正使用の手引き 第四版」は、小児の急性下痢症では原因の特定より重症度の判断を優先し、脱水と判断した場合は早期に経口補水療法を始めるとしている。家庭で脱水の程度を正確に測るのは難しいため、飲めない状態や警告サインがあれば補水だけで経過を見ない。

スポーツドリンクと同じ飲料ではない

消費者庁は、感染性胃腸炎による下痢・嘔吐に伴う脱水時の経口補水液を、国が表示を許可する特別用途食品とし、一般的なスポーツドリンクよりナトリウムとカリウムが多い別の組成だと説明している。売り場で似た容器に入っていても、スポーツドリンクを経口補水液と同じものとして選ばない。

経口補水液は、脱水のない人が日常の水分補給として大量に飲むための飲料ではない。製品の表示を読み、粉末なら指定された水量を守り、調製済みの液体を自己判断で薄めない。本稿では家庭で糖と塩を量る自製配合を示さず、日本の特別用途食品表示がある製品を基準にする。

水分、ナトリウム、カリウム、糖質について医師から制限を受けている人は、経口補水液が必要かを医師、管理栄養士、薬剤師へ確認する。制限の理由を無視して「下痢だから」と飲む量を増やさない。

テーブルに置かれたスポーツドリンクのボトル(イメージ)

絶食を続けず、薬は自己判断で足さない

食べられる状態なら、長時間の絶食を続けない。脂肪分や香辛料の多い料理を避け、普段の食事を少量から戻す。乳児の母乳は続ける。WHOは、下痢の間も母乳を含む栄養のある食事を続けることを主要な対応に含めている。食べると吐く場合は食事を急がず、水分も保てなければ受診する。

市販の下痢止めや手元の抗菌薬を、原因が分からないまま使わない。農林水産省は、食中毒が疑われる下痢や嘔吐では水分を取り、自己判断で薬を飲まず医師の診察を受けるよう案内している。薬を使うかは、血便や発熱、腹痛、持病、常用薬を伝えたうえで医師または薬剤師に確認する。

子ども、妊婦、持病・常用薬のある人

子ども。 経口補水液を少量ずつ頻回に与え、母乳は続ける。人工乳は自己判断で薄めない。半日以上尿が出ない、泣いても涙がほとんど出ない、ぐったりする、血便や強い腹痛がある時は、飲ませ方を変えて様子を見続けず受診する。乳児は年齢と脱水の程度で必要量が変わるため、体重当たりの量を家庭で一律に決めない。

妊婦。 食中毒が疑われる場合、農林水産省は妊娠中の人を重症化に注意する層に挙げ、受診を求めている。水分が保てない、血便、発熱、激しい腹痛がある場合は早めに産科または受診先へ連絡する。妊婦の急性下痢に一律の補水量を示す国内の一般向け公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていないため、一般成人の量や薬の使い方をそのまま当てはめない。

持病のある人。 水分や電解質、糖質の制限がある人、高齢者、免疫機能が低下している人は、脱水への対応が成人一般と異なる。食中毒が疑われる場合、農林水産省は乳幼児、高齢者、妊婦、糖尿病や肝臓疾患、がんの治療中の人などに受診を求めている。経口補水液の使用可否と量を、かかりつけ医へ確認する。

常用薬のある人。 下痢や嘔吐で食事量と水分量が変わっても、薬を自己判断で増減・中止しない。日本糖尿病学会と日本糖尿病協会は、発熱、嘔吐、下痢、食欲不振で血糖が乱れやすい状態を「シックデイ」とし、薬の対応は個別の指示を事前に受けるよう求めている。処方元へ連絡し、下痢の回数、食事と水分、尿、薬の服用状況を伝える。

哺乳瓶を持ち乳児に水分を与える保護者(イメージ)

家族へ広げないための手洗い

感染性の下痢を家庭で見分けるのは難しい。トイレの後、便や吐いた物を処理した後、調理と食事の前には、石けんと流水で手を洗う。症状のある人は家族の食事を調理せず、タオルを共用しない。農林水産省も、手洗い、調理を控えること、汚れた衣類を分けて洗うことを家庭内感染対策に挙げている。

よくある質問

スポーツドリンクで代用してよいか
経口補水液と同じものではない。日本の経口補水液は病者向けの特別用途食品で、一般的なスポーツドリンクとはナトリウムやカリウムの組成が異なる。表示を確認して選ぶ。

一度に多く飲んだ方が早く補えるか
吐き気がある時は一口ずつ間隔を空ける。少量も保てない、飲むたびに吐く、尿が減り続ける場合は量を増やさず受診する。

経口補水液を水で薄めてよいか
自己判断で濃度を変えない。粉末は製品が指定する水量で調製し、完成した液体へ水を足さない。水分や電解質の制限がある人は使用前に医師、管理栄養士、薬剤師へ確認する。

下痢の間は食べない方がよいか
食べられるなら長時間の絶食は続けず、少量から戻す。母乳は継続する。食事や水分を保てない状態、血便、激しい腹痛、意識の変化があれば食事より受診を優先する。