インテルが公表資料で示しているのは、DRAMやNANDの量産再開ではなく、演算装置とメモリーを近づける次世代システムの検討である。2026年7月23日の2026年第2四半期決算説明会で、リップブー・タン(Lip-Bu Tan)CEOは、メモリーがAI基盤の供給制約となる中、主要メモリー3社と協力し、演算とメモリーの統合、積層、利用効率の改善を探っていると説明した。製品名、製造方式、投資額、量産時期は示さなかった。
発言が示す範囲──「再参入」決定ではない
「メモリー分野への復帰」には、単体DRAMやNANDの生産、メモリーを組み込んだプロセッサー設計、他社製メモリーまで含めたパッケージ統合という異なる事業が含まれる。決算説明会で示されたのは後二者に近い構想であり、単体メモリーの製造再開を決めたとの説明はない。
人事もシステム統合を重視する方向を示す。インテルは2026年6月18日、SK hynix元CEOのイ・ソクヒ(Seok-Hee Lee)氏をIntel Foundryの上級副社長に任命し、先端パッケージ、システム統合、後工程技術の開発と製造を担わせると発表した。公式発表は、ロジック、メモリー、ネットワークなどの部品を緊密に結び付ける役割を挙げているが、DRAMやNANDを自社生産する計画には触れていない。
インテルの公式解説によると、Foverosはチップレットを立体的に積層し、EMIBは同一パッケージ内のチップレットを横方向に接続する。EMIB-Tは最新の広帯域メモリー(High Bandwidth Memory、HBM)向けに電力供給と信号配線を改良する技術である。公表内容から読み取れるのは、メモリーを含むシステム全体の設計と実装を事業機会として捉える姿勢であり、メモリー製造工場への再投資まで確認できる段階ではない。
DRAMの89%を3社が握る市場
従来型DRAMの製造へ戻る場合、インテルは寡占市場に入る。Counterpoint Researchの2026年第1四半期集計では、DRAMの売上高シェアはサムスン電子38%、SK hynix29%、Micron22%で、上位3社が計89%を占めた。高帯域メモリー(HBM)もSK hynix58%、サムスン電子21%、Micron21%だった。単体メモリーの量産再開には、既存3社との競争を前提にした製品と設備の計画が要る。
NANDは顔ぶれが広がる。同じ四半期の売上高シェアはサムスン電子29%、SK hynix18%、キオクシア14%で、Micron、SanDisk、YMTCが各13%だった。日本のキオクシアを含む6社が競うNANDと、CPU近傍の積層やパッケージ統合は、同じ「メモリー」でも参入条件が異なる。
1103の成功から1985年のDRAM撤退へ
インテルにとってメモリーは創業期の中核製品だった。同社の公式沿革によると、1970年に投入した1103 DRAMは1971年末までに世界で最も売れた半導体となり、1972年には主要メインフレームメーカー18社のうち14社が採用した。一方、半導体不況が続いた1985年、インテルはDRAMの生産停止を決めた。現在の検討が「再参入」と受け止められる背景には、この撤退の歴史がある。
NANDもすでに切り離した事業である。インテルの米証券取引委員会提出書類によると、SK hynixへのNAND事業売却は2021年12月29日に大連工場とSSD事業などを移す第1段階を終え、2025年3月27日に残るNAND技術と製造関連資産を移す第2段階を完了した。新構想を評価する際は、単体メモリーの量産を再開するのか、他社製メモリーと自社の演算製品を統合するのかを分ける必要がある。
日本ではSAIMEMORYとの共同開発が先行
日本では、構想の一部が研究開発契約になっている。ソフトバンクの完全子会社SAIMEMORYとインテルは2026年2月2日、次世代メモリー「Zアングルメモリー(Z-Angle Memory、ZAM)」の共同開発契約を結び、2027年度中の試作と2029年度中の実用化を目標にすると発表した。両社が掲げるのは大容量、高帯域、低消費電力であり、AI基盤で演算装置に近接するメモリーを設計する方向と重なる。
ただし、試作と実用化はいずれも将来目標である。顧客検証、量産歩留まり、採算性を示す結果はまだ公表されていない。日本国内では共同開発の実施を確認できるが、量産工場、製造委託先、採用顧客、供給量を示す公式資料は本稿執筆時点で確認できていない。
ファウンドリー赤字下で問われる投資範囲
インテルの決算説明資料によると、2026年第2四半期のIntel Foundryは売上高58億ドル、外部売上高2億9300万ドル、営業損失21億ドルだった。同社は2026年の設備投資が200億ドルを超える見通しを示し、ウエハー、基板、メモリー部品の確保も進めている。先端工程とパッケージの拡張を続けながら新たなメモリー製造設備まで抱えるなら、資金配分の負担は増す。
もっとも、ファウンドリー部門の赤字とメモリー検討の因果関係は公式資料で示されていない。本稿で確認した公表資料には、単体DRAMやNANDの専用工場への投資計画もない。現時点で財務数字から導けるのは、量産方式を選ぶ際の投資余力が重要になるという範囲までである。
量産への距離を測る四つの公表事項
第1は製品の定義である。CPU内蔵メモリー、HBMを組み合わせたパッケージ、独自DRAMのいずれを指すのかが定まれば、競合企業と必要な設備が変わる。
第2は生産主体である。インテルがメモリーセルを製造するのか、メモリーメーカーから調達してパッケージ統合を担うのかは、公表されていない。
第3は顧客評価である。帯域、消費電力、容量、歩留まり、単価を実機で検証した結果がなければ、構想を量産品として評価する段階には入らない。
第4は投資と日程である。工場、製造装置、研究開発費、量産開始時期の開示がそろって初めて、メモリー事業への本格復帰か、システム統合の拡張かを判別できる。現状はZAMの目標日程を除き、これらの情報がそろっていない。
よくある質問
インテルはDRAMの生産再開を決めたのか
決めたとは確認できない。公式に説明したのは、主要メモリー企業との協業、演算とメモリーの統合、積層、利用効率の改善を検討しているという範囲である。
イ・ソクヒ氏はメモリー事業を率いるのか
公式な担当はIntel Foundryの先端パッケージ、システム統合、後工程技術の開発と製造である。メモリー企業での経歴はあるが、単体DRAMやNAND事業の責任者として発表されたわけではない。
日本で具体的な計画はあるのか
SAIMEMORYとのZAM共同開発には、2027年度中の試作と2029年度中の実用化という目標がある。一方、量産拠点、製造委託先、採用顧客、供給量は確認できていない。
出典・参考資料
- Q2 2026 Intel Corporation Earnings Conference Call(Intel Corporation)
- Intel Announces Leadership Appointment at Intel Foundry(Intel Corporation)
- Intel’s U.S. Advanced Packaging Enables Next-Generation AI Semiconductors(Intel Corporation)
- Global DRAM and HBM Market Share: Quarterly(Counterpoint Research)
- Global NAND Memory Market Share: Quarterly(Counterpoint Research)
- The Intel 1103 DRAM(Intel Corporation)
- Farewell to DRAM(Intel Corporation)
- Intel Corporation Form 8-K, March 27, 2025(Intel Corporation)
- 2026年第2四半期決算説明資料(Intel Corporation)
- SAIMEMORYとIntel、次世代メモリー技術Z-Angle Memoryの共同開発契約を締結(ソフトバンク株式会社)