浅い切り傷や擦り傷のうち、範囲が小さく、異物が刺さっておらず、圧迫で出血が止まるものは家庭で手当てする範囲に入る。手を清潔にし、出血を止め、流水で汚れを落とし、清潔な被覆材で覆うのが基本の順序だ。

日本赤十字社の応急手当資料は、手当ての前に手を洗い、出血が少ない傷は清潔な流水で洗い、出血が多い場合は洗浄より止血を優先するよう案内している。家庭で扱えるか迷う傷は、消毒液を探す前に深さ、出血、異物、感覚と動きを確認する。

水道の流水で手の小さな傷を洗い、清潔なガーゼを用意する様子(イメージ)

先に確認する──119番と早期受診の兆候

出血が勢いよく続く、直接圧迫を続けても止まらない、顔色が悪い、冷や汗が出る、受け答えがおかしい場合は119番へ通報する。傷を洗うために圧迫を中断せず、清潔なガーゼや布を当てたまま救急隊の指示を受ける。

手足を動かせない、力が入らない、しびれがある、指先が青白い、骨のような組織が見える場合も119番の対象になる。総務省消防庁の全国版救急受診ガイドは、手足・顔面のけがで出血が続く、手足を動かせない、しびれがある、骨のような組織が見えるといった状態を「119」の判定項目に置いている

傷が深い、大きく開いている、顔や手のひらを深く切った、ガラスや木片などが刺さっている場合は早期に医療機関へつなぐ。刺さった物は抜かず、その真上を押さえない。周囲に布を当て、異物の両側から圧迫する。英国のNHSは、止まらない出血、噴き出す出血、感覚や運動の異常、深く大きな傷、顔・手のひらの重い切り傷、異物が刺さった傷を緊急対応の対象に挙げている

動物や人に咬まれた、鋭い物が深く刺さった、土・便・唾液で汚れた、破傷風の接種歴が分からない場合は、傷が小さく見えても医療機関へ相談する。赤みや腫れが広がる、熱を持つ、痛みが増す、膿が出る、発熱する場合も受診を急ぐ。

清潔なガーゼで手の傷を圧迫し、受診の要否を確認する様子(イメージ)

家庭で扱える傷の手順──手洗い、止血、洗浄、被覆

以下は、表在性で小さく、異物が刺さっておらず、感覚と動きに異常がない傷が対象だ。大量出血、深い傷、咬み傷、深い刺し傷には当てはめない。

  1. 手を洗い、清潔なガーゼと被覆材を用意する。石けんと流水で手を洗う。使い捨て手袋があれば着け、他人の血液へ素手で触れない。
  2. 出血が多ければ、洗う前に直接圧迫する。傷に異物がないことを確認し、清潔なガーゼや折り畳んだ布を当てて途切れずに押さえる。血が染みても最初の布を剝がさず、上へ新しい布を重ねる。
  3. 出血が落ち着いたら、水道の流水で洗う。傷へ水を流し、血液、砂、ほこりなどを落とす。傷の周囲は石けんと水で洗い、創面を強くこすらない。
  4. 表面の取れやすい汚れだけを除く。流水で動く砂や小さなごみは清潔な布でそっと除く。深く入り込んだ木片、ガラス、金属を器具で掘らない。
  5. 周囲の水分を押さえ、清潔に覆う。ガーゼや清潔な布で周囲を軽く押さえて乾かし、傷へ貼り付きにくい被覆材または清潔なガーゼを当てる。
  6. 被覆材と傷の変化を確認する。被覆材が濡れた、汚れた、ずれた場合は手を洗って交換する。交換時に赤み、腫れ、熱感、痛み、膿、においを確認する。

豪州政府系のhealthdirectは、子どもを含む小さな傷について、直接圧迫、手洗い、清水または生理食塩水による洗浄、周囲を押さえて乾かすこと、非固着性の被覆材で覆うことを家庭手当ての手順としている。出血が止まらない、傷が深い、傷口が開いている場合は、この手順を続けず診察へ切り替える。

流水で手の小さな傷を洗い、ガーゼと被覆材を順に並べた様子(イメージ)

消毒液を固定手順にしない

家庭で扱える単純な切り傷や擦り傷では、水道水による十分な洗浄が中心になる。日本創傷外科学会の急性創傷診療ガイドラインは、感染予防には水道水洗浄が有効で、消毒薬や生理食塩水を洗浄に使うことは必須ではないとする強い推奨を示している

過酸化水素水、消毒用アルコール、ヨード系消毒薬を、すべての小さな傷へ直接注ぐ定型処置にはしない。日本創傷外科学会の一般向け資料は、消毒薬が創傷治癒を妨げる可能性を説明する一方、感染が強い傷では医師が状態に応じて消毒を選ぶ場合があるとしている。家庭で一律に「常に必要」「常に不要」と決める話ではない。

小さな傷のそばに消毒用アルコールと過酸化水素水を置き、創面へ注がないことを示す様子(イメージ)

咬み傷、深い刺し傷、破傷風

動物または人に咬まれて皮膚が破れた場合は、石けんと水で傷と周囲の唾液をよく洗い、清潔なガーゼで覆って医療機関を受診する。日本赤十字社は、動物と人の歯による傷は一般の感染にも注意が必要で、傷が小さくても洗浄と被覆の後に医師の診療を受けるよう案内している。抗菌薬やワクチンの要否は診察で決まる。

破傷風は、釘のさびだけで判断する病気ではない。厚生労働省は、破傷風菌が主に傷口から入り、ワクチンが予防に有効だと説明している。土や便が入った傷、深い刺し傷、咬み傷、壊れた組織を伴う傷では、接種記録が分かる物を持って医療機関へ相談する。

米疾病対策センターは、刺し傷と、土・便・唾液で汚れた傷を破傷風リスクの高い傷に分類し、医療者が傷の種類、接種歴、免疫状態を評価するとしている。同資料の接種間隔は米国の制度に基づくため、日本での外傷後接種へ数字だけを転用しない。

赤み、腫れ、痛み、膿、発熱を追う

洗浄して覆った後も、交換時に傷を観察する。赤みや腫れが広がる、熱を持つ、痛みが増す、膿が出る、発熱する、約5日たっても改善がない場合は医療機関へ相談する。healthdirectは、これらを感染の兆候として早期受診につなぐよう示している。傷口が閉じたように見えても、痛みや腫れが強まる変化を見逃さない。

子ども、妊婦、糖尿病・抗凝固薬を使う人

子ども。表在性で小さな傷なら、保護者が手を洗い、直接圧迫、流水洗浄、被覆の順で手当てする。消防庁の手足・顔面のけがの判定は成人と小児を同じページで扱っている。出血が続く、手足を動かせない、しびれがある、骨のような組織が見える場合は119番へ通報する。深さを確認できない、洗い切れない、被覆材を保てない場合は診察へつなぐ。

妊婦。清水または生理食塩水による洗浄と被覆を成人一般から変えるよう示した国内の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。消毒薬、軟こう、鎮痛薬を使おうとする場合は、産科のかかりつけ医または薬剤師へ確認する。出血や傷の深さに関する警告サインは前節を優先する。

糖尿病や免疫機能が低下している人。糖尿病では、特に足の傷を感覚低下で見落とし、血流や感染の影響で治りが遅れる場合がある。小さいから長く様子を見るとは決めず、かかりつけ医へ早めに相談する。重い免疫不全がある人では破傷風の予防処置も個別評価になる。

抗凝固薬など出血に影響する薬を使う人。深い傷で圧迫しても出血が止まらない場合は119番へ通報する。healthdirectは、深い傷と止まらない出血があり、血液を固まりにくくする薬を使っている場合を救急要請の対象に挙げている。薬を自己判断で中断せず、救急隊や受診先へ薬の名称を伝える。

傷の手当て用品を前に医療従事者へ相談する保護者と患者(イメージ)

よくある質問

小さな傷は必ず消毒するのか
水道水で十分に洗うことが中心で、消毒薬は固定手順ではない。傷が深い、汚れが取れない、感染の兆候がある場合は、家庭で薬剤を追加せず診察につなぐ。

止血と洗浄はどちらが先か
出血が多ければ直接圧迫を先に行う。出血が少ない傷は流水で汚れを落とす。圧迫で出血が落ち着いた後に洗浄し、清潔な被覆材で覆う。

異物が刺さっていたら抜くのか
深く刺さったガラス、木片、金属は抜かない。異物の真上を押さえず、周囲から圧迫して医療機関へつなぐ。表面の砂やほこりだけを流水で流す。

破傷風を医師へ相談する傷はどれか
深い刺し傷、土・便・唾液で汚れた傷、動物や人の咬み傷、壊れた組織を伴う傷、接種歴が不明な場合が対象になる。消毒の有無では決まらず、傷の種類と接種歴から医師が判断する。

洗浄後の小さな傷を清潔な被覆材で覆い、経過を記録する様子(イメージ)