米財務省外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control、OFAC)は8月20日、キューバの国営企業8社と建設省、キューバ諸国民友好協会(Cuban Institute of Friendship with the Peoples、ICAP)の幹部3人を制裁対象者リストへ追加した。金属、鉱業、建設、輸入、人材サービスに関わる組織が対象となった。

この発表に先立ち、ハバナでフィデル・カストロ生誕100年の行事に参加した複数の米国人が、帰国時にマイアミ国際空港で一時留置された。AP通信は匿名の米当局者の話として、一部の携帯電話などが検査のため押収され、留置された人は後に全員が入国を認められたと報じた。米税関・国境取締局(U.S. Customs and Border Protection、CBP)は、審査の人数や選定基準を公表していない。

制裁対象──国営8社・建設省とICAP幹部3人

OFACの公式リストに載った9組織は、Acinox Comercial、Acorec、Coratur、Transimport、Consumimport、Empresa de Níquel Comandante Ernesto Che Guevara、Metalcuba、Geominsalの国営8社とキューバ建設省である。建設省は企業ではなく政府機関に分類されているため、本稿では9組織の内訳を分けて表記する。

ICAP関係では、会長フェルナンド・ゴンザレス・ジョルト(Fernando González Llort)、第一副会長ノエミ・ラモナ・ラバサ・フェルナンデス(Noemí Ramona Rabaza Fernández)、北米部長レイマ・マルティネス・フレイレ(Leima Martínez Freire)が対象となった。マルコ・ルビオ国務長官は、ICAPが教育・文化交流を装って米国内の活動家を取り込んでいると主張した。今回の米政府発表には、この主張を独立に検証できる資料は示されていない。

ICAPそのものは6月4日、行政命令14404に基づいてすでに制裁対象へ追加されていた。8月20日の措置は、組織に続いて幹部3人を個別に指定した形である。

行政命令14404と従来規則の関係

OFACは、5月1日付の行政命令14404(Executive Order 14404)が、エネルギー、防衛・関連物資、金属・鉱業、金融サービス、安全保障の5部門などを対象とする新たな制裁制度を設けたと説明している。キューバ資産管理規則(Cuban Assets Control Regulations、CACR)とは別の制度で、従来の禁止措置、許可、適用除外は引き続き有効である。

行政命令は、キューバ政府を支援すると米政府が判断した外国人や、指定対象との重要な取引に関わる外国金融機関にも制裁を科す権限を与えた。ただし、OFACは、指定された5部門で活動するだけで全組織が自動的に制裁対象となるわけではなく、行政命令に基づいて個別に指定された者が対象になると明記している。8月20日の指定を「キューバ関連の全取引が新たに一律禁止された」と読むのは正確でない。

マイアミ空港の二次審査 詳細は非公表

AP通信によると、米当局は当初、帰国する活動家数十人を二次審査する準備をしていたが、CBPの強化質問の基準に該当した人は想定より少なかった。当局者は作戦の詳細が公表されていないことを理由に匿名を条件として取材に応じた。留置された人の正確な人数と氏名は明らかになっていない。

留置された人は全員が米国への入国を認められた。当局者は、制裁違反が確認されれば後に訴追される可能性があるとAP通信に説明したが、実際の訴追は確認されていない。押収された携帯電話、ノートパソコン、タブレット端末が返還されたかも不明である。

空港の入国審査台に置かれた旅券と書類(イメージ)

旅行規則──観光取引は許可対象外

制裁対象者の指定と、米国管轄下の人がキューバへ渡航する際の取引規制は分けて考える必要がある。OFACは、観光目的のキューバ関連旅行取引を認めず、CACRが定める12分類の活動に該当する取引だけを一般許可または個別許可の対象としている。家族訪問、報道、専門研究、教育、人道事業などが分類に含まれる

今回の事案は、キューバから戻る全員が留置対象となることを示していない。公表情報から確認できるのは、特定の行事に参加した複数の米国人が二次審査を受けたことまでである。個々の旅程や取引が許可条件を満たしていたかは明らかになっていない。

日本人への影響 キューバ渡航歴とESTA

日本国籍者には別の注意点がある。外務省は、2021年1月12日以降にキューバへ渡航または滞在した人は、米国のビザ免除プログラム(Visa Waiver Program、VWP)を利用できないと案内している。米国へ渡航する際の電子渡航認証システム(Electronic System for Travel Authorization、ESTA)が使えないという既存の条件である。

このVWPの条件は、8月20日に発表された9組織と3人への制裁や、マイアミ空港での一時留置とは別の制度である。日本人旅行者が今回と同じ二次審査の対象となる条件を示した日本政府またはCBPの公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。

キューバ側は経済への打撃を主張

キューバのブルーノ・ロドリゲス外相は、新たな措置には同国経済と基礎的な公共サービスを損なう狙いがあるとXで反発し、ICAPは友好と国際連帯を促してきた組織だと主張した。ルビオ氏の説明と同様、制裁を巡る当事国政府の立場として切り分ける必要がある。

キューバのエルネスト・ソベロン・グスマン国連大使はAP通信に、米制裁が民間投資を呼び込む改革の妨げになっていると述べた。米国務省は取材に対し、資金調達の経路を塞ぐため新たな制裁を続けるとのルビオ氏の発言を示した。投資や生活物資への影響を米政府の政策、キューバ政府の運営、燃料不足に分けて測る独立した定量評価は確認できていない。

よくある質問

8月20日に制裁対象となったのは9社か
OFACの公式リストでは、国営企業8社とキューバ建設省の計9組織である。建設省は政府機関に分類されている。これとは別にICAP幹部3人が指定された。

マイアミ空港で留置された人は起訴されたのか
AP通信が取材した時点では全員が入国を認められ、起訴は確認されていない。将来の訴追可能性は匿名当局者の説明であり、違反が確定したとの発表ではない。

日本人はキューバへ行くと米国へ入れなくなるのか
外務省が案内しているのは、2021年1月12日以降のキューバ渡航・滞在歴がある人はVWPを利用できないという条件である。米国への入国が一律に禁止されるとの意味ではない。VWPを使わない渡航手続きは米国当局の案内を確認する必要がある。