オーストラリア連邦警察(Australian Federal Police、AFP)は2026年8月21日、ロシアとオーストラリアの二重国籍を持つ27歳男を、「故意による外国干渉」(intentional foreign interference)の未遂罪1件で訴追したと発表した。男はビクトリア州の住民で、前日の20日にクイーンズランド州サムナーで逮捕された

ABC Newsによると、男はウラジーミル・テスロフ(Vladimir Teslov)被告と法廷で確認され、21日にブリスベン治安判事裁判所へ出廷した。審理は10月2日まで延期された。現時点で有罪認定や量刑判断は出ていない。

容疑の時系列──ロシアからウクライナへ

AFPの主張では、テスロフ被告は2024年10月にロシアへ渡って軍事式訓練を受け、同年12月にオーストラリアへ戻った。その後も、本人がロシアの情報機関とつながると認識していた人物との接触を続けた

警察はさらに、被告が2025年5月にウクライナへ渡って同国軍に入り、軍人、部隊、所在地に関する情報へ接触したとみている。その情報を、本人がロシア情報機関の代理人だと考えていた人物に「提供した、または提供しようとした」というのがAFPの説明だ。情報の受け渡しが完了したと確定した発表ではない。

92.2条と11.1条──未遂でも法定上限は20年

AFPが示した罪状は、オーストラリア連邦刑法(Criminal Code Act 1995)92.2条1項に、未遂を定める11.1条を適用したものだ。92.2条1項は、外国主体(foreign principal)を代表して、またはこれと協力して行為する場合や、その指示、資金提供、監督を受けて行為する場合を対象とする。外国主体の情報活動を支える意図などを持ち、行為の一部が秘密裏、欺瞞、重大な危害を加えるとの脅し、威迫を伴う要求のいずれかに当たることも要件で、最高刑は禁錮20年である

11.1条は、犯罪の実行を試みた者を既遂の場合と同じ刑に処し得ると定める一方、有罪とするには行為が単なる準備を超えていなければならず、その判断は事実問題だとしている。したがって、未遂罪での訴追でも条文上の上限は20年のままだ。ただし、これは20年の刑が決まったという意味ではない。

AFPの公表文は92.2条1項と11.1条を挙げているが、訴追側が各要件にどの証拠を当てはめるのかは示していない。被告の行為が単なる準備を超えたか、外国主体との関係や必要な意図が立証されるかは、今後の裁判手続きで判断される。

複数地点を捜索、電子機器を鑑識へ

AFPは、オーストラリア保安情報機構(Australian Security Intelligence Organisation、ASIO)の捜査を受け、2026年6月に「ウッドクリーパー作戦」(Operation Woodcreeper)を始めた。8月20、21日にはブリスベン周辺の複数の住宅や物件、人物を対象に捜索令状を執行し、電子機器や関連物品を押収した。機器は詳細な鑑識の対象となる

AFPは、今回の行為がウクライナ軍人の安全を危険にさらしたと主張する一方、オーストラリアへの脅威があった、または現在あると示すものはないとした。捜査は継続中であり、押収機器から何が確認されたかは公表されていない。

公開情報が示していないこと

警察は、対象となった情報の内容、機密指定の有無、量、受領者の身元を明らかにしていない。「提供した、または提供しようとした」とする発表からは、情報が実際に相手へ届いたか、届いた場合にどの範囲かを切り分けられない。公開された発表と報道には起訴状の全文や被告の認否も含まれていない。

在キャンベラ・ロシア大使館はABC Newsに対し、事件をメディア報道で知り、豪州当局、被告のいずれからも正式な要請や通知を受けていないと回答した。これは大使館側の説明で、警察の容疑を認めたり否定したりする内容ではない。

日本の外務省や在オーストラリア日本国大使館が本件に言及した日本語の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。本稿は豪州当局の英語発表、連邦法令、現地報道で確認できた範囲を整理したもので、10月2日の審理後に手続きや事実関係が更新される可能性がある。

よくある質問

どの罪で訴追されたのか
連邦刑法92.2条1項の「故意による外国干渉」について、11.1条を適用した未遂罪1件である。AFPは、被告がロシア側の利益のためにウクライナ軍の情報を集め、伝えようとしたと主張している。

禁錮20年が確定したのか
確定していない。20年は92.2条1項の法定上限である。被告は訴追された段階で、有罪かどうかも実際の刑も裁判所が今後判断する。

情報はロシア側へ渡ったのか
公開情報では確定していない。AFPの表現は「提供した、または提供しようとした」で、情報の内容、受領者、実際に届いた範囲は公表されていない。

次の裁判手続きはいつか
ABC Newsによると、次回審理は2026年10月2日に設定された。期日は今後変更される可能性がある。