米国立アレルギー感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases、NIAID)の元上級顧問デビッド・モレンス(David Morens)被告は2026年8月18日、メリーランド州グリーンベルトの連邦地裁で、合衆国法典18編371条の「米国に対する犯罪の実行または米国を欺くための共謀」1件について有罪答弁した。米司法省メリーランド地区連邦検事局によると、モレンス被告は2006年から2022年までNIAID所長室の上級顧問を務め、今回認めた罪の法定上限は禁錮5年である

AP通信は、量刑言い渡しが11月12日に予定され、アンソニー・ファウチ(Anthony Fauci)氏はモレンス被告の事件で起訴されていないと報じた。禁錮5年は確定刑ではなく、法定上限を示す数字だ。実際の刑は裁判官が量刑指針などを踏まえて決める。

認めた共謀──私用Gmailで公務記録を政府システム外へ

米情報自由法(Freedom of Information Act、FOIA)は、連邦機関が保有する記録へのアクセスを請求する制度である。米司法省が運営するFOIA.govは、国籍を問わず原則として誰でも請求でき、個人のプライバシー、国家安全保障、法執行など九つの不開示事由があると説明している

モレンス被告らはFOIA請求を見越し、COVID-19の起源と打ち切られたコウモリ由来コロナウイルス研究助成を巡る連絡を、公式のNIHメールではなく被告の私用Gmailで交わして公の目から隠すことを文書で合意した。私用アカウントでは、非公開のNIH情報、打ち切られた助成の復活をNIHに働きかける連絡、NIH幹部宛て書簡の修正、NIAID上級幹部への非公式な情報伝達が扱われた

司法省は、これらの連絡がモレンス被告の職務に属する連邦記録であり、政府のシステムで作成、維持、交換すべきものだったと説明する。私用メールを使った行為だけを切り離した事件ではない。有罪答弁の対象は、連邦記録法(Federal Records Act)とFOIAに基づく手続きを逃れる記録隠しや違法な謝礼を含む共謀である。

ワインは贈与 レストランでの食事は提案段階

有罪答弁には、モレンス被告と「共謀者1」が違法な謝礼を巡って共謀した事実も含まれる。共謀者1は水面下での働きへの謝意としてワインを被告の自宅へ送り、パリ、ニューヨーク、ワシントンのミシュラン星付き店での食事も提案した。司法省は、謝礼に見合う公務として、COVID-19の自然起源を支持する医学誌向け論評の執筆が挙げられたと説明している

公表資料が確認するのはワインの贈与と食事の提案である。列挙された店で実際に食事が提供されたとの記載はない。贈答品の内容と、実現していない提案を同じ「供応」として扱うと、認めた事実の範囲を越える。

米国立衛生研究所(NIH)のベセスダ施設にある臨床センター10号棟

助成先は公開データで確認 共謀者名は司法省が匿名化

司法省の4月の起訴発表は、問題となった助成を「Understanding the Risk of Bat Coronavirus Emergence」とし、NIAIDから「企業1」と「共謀者1」に交付され、武漢ウイルス研究所(Wuhan Institute of Virology、WIV)へ再助成(subaward)されたと記載した。NIHは、COVID-19が同研究所から発生したとの主張を受けて助成を打ち切ったと説明している

米保健福祉省の助成データベースでは、同名の助成R01AI110964が2014年に始まり、受給者はニューヨークの非営利団体エコヘルス・アライアンス(EcoHealth Alliance)だったと確認できる。一方、司法省の有罪答弁発表は企業名と共謀者名を伏せたままだ。

CBS Newsは、連邦議会が公開したメールから企業1はエコヘルス・アライアンス、共謀者1は当時の代表ピーター・ダザック(Peter Daszak)氏を指すと報じた。公開情報の記述は重なるが、司法省がダザック氏を共謀者として実名で公表したわけではない。本稿執筆時点で、同氏がこの事件で起訴されたとする公的資料は確認できていない。

ファウチ氏の説明は証言 司法認定とは別

司法省の公開資料はNIAID上級幹部を匿名で記し、ファウチ氏を被告に挙げていない。モレンス被告が非公式に情報を伝えた相手や、その相手がどこまで事情を知っていたかについて、今回の有罪答弁だけから結論は出せない。

ファウチ氏は2024年6月の米下院公聴会で、モレンス氏は研究論文では協力者だったが、研究所の政策や実質的な問題の助言者ではなかったと証言した。自身は私用メールで公務を扱った記憶がなく、モレンス氏の私用メール利用はNIH方針に反すると述べた。これはファウチ氏本人の説明であり、モレンス被告の事件で裁判所が認定した事実ではない。

日本の情報公開法と共通する「誰でも請求」

日本の「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」も、3条で何人にも行政文書の開示請求を認め、5条で不開示情報を除く文書の開示義務を定める。FOIAと同様、政府が保有する記録へのアクセスを制度化した法律だ。

ただし、日米の文書管理、開示手続、刑事法の構成要件は同一ではない。モレンス被告の罪名や法定刑は、日本で私用メールを使った場合へそのまま適用できない。日本の政府機関が今回の有罪答弁を日本語で詳しく説明した資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。

記録隠しの認罪はウイルス起源の判定ではない

世界保健機関(World Health Organization、WHO)の専門家グループは2025年6月、利用可能な証拠の重みは動物から人への感染を示唆すると評価した一方、全仮説を十分に検討する情報は提供されておらず、研究関連事故を含む仮説を残した。WHOは起源解明の作業を未完としている

モレンス被告が認めたのは、政府記録を隠す合意と違法な謝礼を含む共謀である。刑事手続が扱う透明性の問題と、SARS-CoV-2がどこから生じたかという科学的評価は分ける必要がある。

よくある質問

モレンス被告が認めた罪は何か
合衆国法典18編371条の「米国に対する犯罪の実行または米国を欺くための共謀」1件である。私用Gmailを使ったという一点ではなく、記録隠しと違法な謝礼を含む合意が対象だ。

刑期は5年で決まったのか
決まっていない。禁錮5年は法定上限で、量刑言い渡しは11月12日に予定されている。

共謀者1はピーター・ダザック氏なのか
公開された助成記録やメールに基づく報道は同氏を指すが、司法省は有罪答弁の発表で氏名を明らかにしていない。司法上の正式な名指しとしては扱えない。

ファウチ氏も本件で起訴されたのか
起訴されていない。ファウチ氏はモレンス氏の私用メール利用を知らなかったと証言したが、それは本人の説明であり、本件の司法認定ではない。

この認罪でCOVID-19の研究所流出が確定したのか
確定していない。本件は連邦記録と違法な謝礼を巡る刑事事件で、ウイルス起源の科学的評価とは別である。