ガザで2024年4月1日、ワールド・セントラル・キッチン(World Central Kitchen、WCK)の人道支援車列がイスラエル軍の攻撃を受け、オーストラリア人のゾミ・フランクコム(Zomi Frankcom)氏ら7人が死亡した。

イスラエル国防軍(Israel Defense Forces、IDF)は2026年8月19日、刑事捜査を開始しないと決めた。オーストラリア政府はさらなる責任追及を求め、WCKは軍の説明を否定して独立調査を要求した。

刑事捜査を見送った2026年の判断

APによると、IDFはガザでの部隊行動150件の検証を終え、このうち5件について判断を公表した。WCK事件では、司令官の判断に刑事上の不正行為を疑う合理的な根拠はないとして、刑事捜査を開始しなかった。一方、同時に公表された5件のうち、2024年に死亡したパレスチナ人の女児ヒンド・ラジャブと家族、2025年に死亡した救急要員15人の事件は刑事捜査へ移された。

IDFは、車内の人物を武装したハマス要員と誤認し、車列が事前に調整した経路から外れたと説明した。WCKは8月19日、軍の説明は別の時間帯と出来事を混同して責任を転嫁していると反論し、独立調査を改めて要求した。WCK側は、攻撃されたチームは武装しておらず、軍は車両の表示、移動予定、要員の身元を事前に把握していたとしている。

2024年調査で認めた重大な手続き違反

IDFが2024年4月に公表した初期調査は、部隊がWCKの3台を組織の車両と認識せず、ハマス要員が乗っていると誤認して攻撃したと結論づけた。軍は誤認、判断ミス、命令と標準作業手順への重大な違反を認めた。この調査を受け、将校2人が職を解かれ、旅団長、師団長、南部軍司令官の3人がけん責された。

豪政府は元国防軍司令官のマーク・ビンスキン氏を特別顧問に任命し、イスラエル側の対応を検証させた。ビンスキン氏には捜査権限がなく、刑事捜査や国際的な独立調査とは性格が異なる。公開報告によると、同氏は音声のない90分間の無編集の無人航空機映像を閲覧し、1台目への攻撃は誤認が、2台目と3台目への攻撃は標準作業手順と交戦規定への違反が死者を生んだ可能性が高いと評価した。車列の経路変更は、攻撃の判断後に把握されたため判断要因ではなかったとも記した

船上で人道支援物資のパレットを移動する米陸軍兵士(イメージ)
2024年6月、イスラエル・アシュドッド港近くの船上でガザ向け人道支援物資を移動する米陸軍兵士。(U.S. Army/Staff Sgt. Malcolm Cohens-Ashley、パブリックドメイン、Wikimedia Commons

豪州の抗議、謝罪と補償は未決着

Reutersによると、ペニー・ウォン(Penny Wong)外相は8月20日にイスラエルのヒレル・ニューマン大使を呼び、刑事手続きを進めないとの判断は豪州が求める説明責任に遠く及ばないと抗議した豪政府は決定前の2026年4月にも、透明性と適切な刑事責任を含む全面的な説明責任を求める立場を公表していた

豪政府は将校2人の解任と3人のけん責では不十分とし、イスラエルが無人航空機映像の音声を公開しておらず、ビンスキン氏の検証にも提供しなかったと説明した。公開済みのビンスキン報告で確認できる映像も音声を含まない。

ビンスキン報告は、イスラエル政府による適切な謝罪を検討すべきだとし、その際に遺族へ補償を申し出る機会があると記した。これは補償義務や金額を決めた判断ではない。補償の申入れ主体、法的根拠、金額、協議開始を示す正式な公表資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。今回公表されたのは刑事捜査を巡る判断であり、謝罪や補償が完了したことを意味しない。

日本は事件直後に調査と再発防止を要求

日本の外務省によると、上川陽子外相は2024年4月3日のイスラエル外相との電話会談で、援助関係者の死傷を深く憂慮し、しかるべき調査と再発防止策を求めた。ただし、2026年8月の刑事捜査見送りに対する日本政府の公表資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。

問責は一つの手続きではない

IDFが2024年に実施した解任とけん責は軍内部の指揮・行政上の措置である。2026年に見送られた刑事捜査は、個人の刑事責任を調べる別の手続きだ。遺族への謝罪や補償、WCKが求める第三者の独立調査も、それぞれ目的と判断主体が異なる。

軍が重大な手続き違反を認めたことと、刑事捜査に進まないとの判断は併存している。現時点で残る争点は、軍が攻撃時に何を把握していたか、未公開の音声を含む証拠がどこまで開示されるか、軍外の機関が事実関係を検証するか、遺族への謝罪と補償が具体化するかである。

よくある質問

刑事捜査をしないなら、軍の過失も否定されたのか
否定されていない。IDFは2024年の初期調査で誤認、判断ミス、命令と標準作業手順への重大な違反を認め、人事措置を取った。2026年の判断は、刑事上の不正行為を疑う合理的根拠がないとして刑事捜査を見送ったものである。

独立調査は行われたのか
WCKが求める第三者の独立調査が完了したことを示す公表資料は確認できていない。豪政府のビンスキン特別顧問による検証は公開報告にまとまったが、同氏自身が捜査権限を持たないと明記している。

遺族への補償は決まったのか
決まったことを示す正式発表は確認できていない。ビンスキン報告は、政府レベルの謝罪に際して補償を申し出る機会に触れたが、受給者、金額、手続きは示していない。