米国の農家は、肥料と燃料の値上がり、大豆価格の低迷、対中輸出市場の変化を同時に受けている。イラン戦争はホルムズ海峡を通るエネルギーと窒素肥料の供給を細らせ、前年から続く農業経営の圧力を強めた。

Amato Advisorsが委託しFarm Journalが実施した2026年4月の調査は、44州の農家・牧場主974人のうち94%が、イラン戦争によって肥料費かエネルギー費、または両方が上がったと答え、39%を通常の支持先から動く可能性がある層(persuadable)に分類した。農家票を基盤の一つとしてきた共和党にとって、経営コストが11月の中間選挙で投票行動へ結びつくかが焦点になる。

ホルムズ海峡から農場へ──肥料と燃料の経路

AP通信によると、米国とイスラエルが2月28日にイランを攻撃した後、ホルムズ海峡の船舶通行が鈍った。同海峡は世界の石油・天然ガス輸送量の約20%が通る要衝で、燃料価格が上がり、ペルシャ湾岸で生産される窒素肥料の輸出も大きく滞った

同じ報道が米国農業団体連合会(American Farm Bureau Federation)の集計として伝えたところでは、米国が輸入する肥料の約15%は中東産である。中東は世界の尿素供給の約半分、アンモニアの30%を担う。窒素肥料を多く使うトウモロコシ農家への影響が大きく、大豆と小麦を同じ農場で育てる経営体にも支出増が広がる。

AP通信が取材したテネシー州の農家トッド・リトルトン氏は、今季の肥料費が前年より10万ドル、率にして約40%増えると見込んだ。これは一農家の試算であり、全米平均ではない。それでも、作付け前に必要な資材費が短期間で変わる経営上の負担を示す。

価格上昇の原因を戦争一つに絞るのも適切ではない。ロシアによるウクライナ侵攻で原料と天然ガスの供給が揺れ、中国は国内需要を優先してリン酸塩の輸出を絞っていた。米国内で作る肥料にもエネルギー費はかかり、軽油高はトラクター、トラック、乾燥設備の稼働費へ波及する。戦争は、すでに高かった費用へ新たな上昇要因を重ねた形だ。

米中関税応酬が大豆市場に残した傷

AP通信とLee Enterprisesの取材によると、トランプ政権が2025年4月に広範な関税を課すと、中国は報復関税で応じ、米国産大豆の購入を事実上止めた。主要な輸出先を失った中西部の農家は、世界的な供給過剰による大豆安と生産費の上昇を同時に受けた。米農務省の推計では、大豆生産の直接経費は2020年以降高い水準にあり、2026年も上昇が見込まれている。

米中は2025年末に購入で合意し、中国は2026年1月までに米国産大豆1200万トン、その後3年間は年2500万トン以上を買うと約束した。AP通信は、中国が最初の1200万トンの目標を達成したと伝える。一方で、中国はブラジルなど競合国からの調達を増やしており、購入再開だけで米国の市場シェアが元へ戻るわけではない。

米政府は一時支援も用意した。米農務省農業サービス局の農家つなぎ支援(Farmer Bridge Assistance、FBA)は、穀物などの生産者に110億ドル、追加品目に10億ドルを充てる計120億ドルの制度で、2026年4月17日に申請を締め切った。支給額は生産量ではなく、対象作物の申告面積を基に算定する。肥料費や輸出損失が経営体ごとに異なるため、支援後に残る負担も一律ではない。

39%は「民主党支持」への転換ではない

調査では78%が農機や肥料、燃料、種子、農薬などの投入費を経営上の上位3課題に挙げた。過去1年の連邦政策が農場経営に悪影響を与えたとの回答は55%で、助けになったとの回答は19%だった。調査は4月24日に終了し、結果は5月18日に公表された。

この39%は、別政党への投票を検討する人だけの数字ではない。独立候補や第三政党の候補、棄権の検討、投票先未定も含む。「常に共和党へ投票する」と答えた層の15%、「通常は共和党へ投票する」とした層の35%がこの分類に入ったが、民主党への転向率や共和党の議席減を示す数字ではない。

この調査が捉えたのは、農家・牧場主が4月時点で示した経営認識と投票意向である。全米の有権者調査ではなく、選挙区ごとの候補者や接戦度も反映していない。秋までの農産物価格、肥料と燃料の請求額、輸出注文、政府支援の受取額が変われば、実際の投票行動も動く余地がある。

日本への波及──同じ値動きでも調達構造は異なる

米国で確認された経路は、そのまま日本の農業へ当てはめられない。農林水産省は3月3日時点で、日本が輸入する尿素の約74%はマレーシア、リン酸アンモニウムの約72%は中国、塩化カリウムの約78%はカナダから来ており、肥料や飼料に直ちに影響が出たとの報告は受けていないと説明した。肥料輸入の約15%が中東産である米国とは、調達先の構成が違う。

ただし、日本の価格も国際市況から切り離されてはいない。農林水産省が8月21日に更新した資料では、尿素の輸入通関価格は2026年1月の1トン7万7300円から5月に14万1400円へ上がり、6月は11万9700円だった。2020年平均を100とする国内の肥料物価指数も、1月の143.1から6月の146.3へ上昇した

この統計は価格の推移を示すが、イラン戦争、エネルギー相場、為替、ほかの供給制約の寄与を分解していない。米国の農家調査も、日本の農家の経営状態や投票意向を測ったものではない。比較できるのは、輸入資材と燃料の国際価格が農業コストへ伝わる構造までである。

秋の収穫と中間選挙までの焦点

肥料価格は、海峡の通行が戻れば直ちに元の水準へ下がるとは限らない。AP通信によると、中東からニューオーリンズ港までの輸送には通常30〜45日かかり、停止した生産と物流の再開にも時間が要る。既存在庫が薄くなる時期と秋の追加需要が重なれば、農家の資金繰りへの圧力が残る。

大豆では、中国が年2500万トン以上の購入を続けるか、ブラジルへの調達移行がどこまで定着するかが販路を左右する。選挙面では、4月調査の39%が別候補への投票、棄権、未定のどこへ動くかを分けて見る必要がある。コストへの不満と選挙結果の間には、候補者、投票率、選挙区事情という別の段階が残る。

よくある質問

イラン戦争はなぜ米国の肥料費を押し上げたのか
ホルムズ海峡の船舶通行が鈍り、ペルシャ湾岸で生産される窒素肥料の輸出が滞ったためだ。肥料生産に使うエネルギーの値上がりも重なった。中東は世界の尿素供給の約半分を担う。

39%の農家が民主党へ投票するのか
その意味ではない。39%には別政党への投票、独立・第三党候補、棄権の検討、投票先未定が含まれる。共和党から民主党への移動だけを測った数字ではない。

日本の農家も米国と同じ影響を受けるのか
調達構造が違うため、同じ幅の影響とは判断できない。日本は尿素を主にマレーシア、リン酸アンモニウムを中国、塩化カリウムをカナダから輸入する。一方、国際的な肥料価格とエネルギー価格の上昇は、日本の調達費にも波及しうる。