英国テロ対策警察(Counter Terrorism Policing、CTP)は2026年8月20日、サルフォード在住のヘクマット・オマル・アリ・ハキム(Hekmat Omar Ali Hakim)被告を、テロ活動に関する情報を警察へ伝えなかった罪で起訴した。被告は49歳のイラク国籍で、身柄を拘束されたまま同月21日にウェストミンスター治安判事裁判所へ出廷する予定とされた。CTPは、起訴が2025年10月2日のヒートン・パーク・ヘブライ会衆シナゴーグ(Heaton Park Hebrew Congregation Synagogue)襲撃に直接関係すると説明した。

公表されたのは2000年テロリズム法(Terrorism Act 2000)38B条違反という罪名までだ。警察は、ハキム被告がどの情報をいつ把握したとみているのか、検察がどの証拠を示すのかを明らかにしていない。今回の発表は、被告が襲撃を計画または実行した罪で起訴されたことを示していない。

起訴までの経過

CTPは今回の起訴に先立つ2026年5月26日、サルフォードで49歳男性を第38B条違反の疑いで逮捕し、翌27日に保釈したと発表していた。逮捕は2025年10月の襲撃に直接関係し、捜査は継続中だとしていた

8月20日の発表では被告の氏名とイラク国籍が示され、身柄を拘束されたまま翌日に出廷する予定も公表された。起訴状そのものや証拠の概要は本稿の執筆時点で確認できず、被告の認否も確認できていない。

第38B条──問われるのは情報を伝えなかった行為

英国議会の改正審議資料は、第38B条について、テロ行為の防止、またはテロ行為の実行・準備・扇動に関わる者の逮捕、訴追、有罪認定に実質的に役立つ情報を警察へ伝えない行為が対象だと説明している。同資料には最高刑を5年から10年へ引き上げる修正内容も記載されている

英国王立検察庁(Crown Prosecution Service、CPS)の一般向け解説は、情報を可能な限り速やかに警察へ伝える必要があり、伝えなかったことに合理的な理由があれば抗弁になるとしている。ただし、同ページにある最高刑5年は改正前の記載だ。英政府の2025年検証文書は、2019年反テロ・国境警備法による第38B条の最高刑引き上げが同年4月12日に施行され、現在は禁錮10年であると示している

攻撃の準備や実行を罰する罪と、情報を伝えなかった行為を罰する第38B条は区別する必要がある。今回の公表資料では、検察がどの情報を「テロ行為の準備に関する情報」と位置づけ、被告がどの時点で把握したと主張するのかが分からない。合理的な理由の抗弁が争点になるかも未確定だ。

襲撃はユダヤ教の贖罪日に発生

英内務省が公表した議会声明によると、襲撃は2025年10月2日、ユダヤ暦で最も神聖な日とされる贖罪日(ヨム・キプール)に起きた。襲撃者ジハード・アルシャミー(Jihad Al-Shamie)は礼拝者へ車で突っ込んだ後、刃物を持って襲い、偽の爆発物を身につけていた。最初の緊急通報から7分以内に武装警察が襲撃者を射殺した

メルビン・クラビッツ(Melvin Cravitz)さんとエイドリアン・ドールビー(Adrian Daulby)さんが死亡し、男性3人が重傷を負った。CTPは2026年8月20日の更新で、重傷者3人は全員退院したと明らかにした。同時点でも、警察は襲撃の全体像と関係者を特定する捜査を続けている。

出廷結果と具体的な情報は未確認

ハキム被告は8月21日にウェストミンスター治安判事裁判所へ出廷する予定とされたが、出廷結果と認否を示す公的資料は本稿の執筆時点で確認できていない。予定された期日と、実際に行われた手続きの結果は分けて扱う必要がある。

本件の起訴状や出廷結果を日本語で公表した公的資料も確認できていない。本稿はCTP、CPS、英内務省が英語で公表した資料を基に、確認できた範囲を整理した。現時点の公表資料からは、第38B条違反以外の関与を確認できない。

よくある質問

第38B条は何を罰するのか
テロ行為の防止、または関係者の逮捕・訴追・有罪認定に実質的に役立つ情報を速やかに警察へ伝えなかった行為を対象とする。合理的な理由があれば抗弁となり、2019年改正後の最高刑は禁錮10年である。

ハキム被告は会堂襲撃への参加で起訴されたのか
公表された罪名は第38B条違反であり、襲撃の計画や実行に関する別の罪名は発表されていない。情報の内容と被告が把握した時期も非公表である。

次に確認すべき手続きは何か
8月21日の出廷結果、被告の認否、今後の審理日程である。いずれも本稿の執筆時点で公的資料を確認できていない。