虫よけ剤(忌避剤)は、蚊が多い屋外で皮膚の露出を減らす対策に加えて使うものだ。日本で一般に使われる有効成分はディート(DEET)とイカリジン(Icaridin/Picaridin)だが、乳幼児の年齢制限は同じではない。国内の承認内容と製品表示に沿って選ぶ必要がある。
先に確認する119番の兆候
虫に刺された後、全身にじんましんが出て顔色が悪くなった場合は119番へ連絡する。唇が紫色になる、激しいせきやぜん鳴で呼吸が苦しそう、呼吸が弱い、呼びかけへの反応がおかしい、けいれんが止まらない場合も待たない。厚生労働省の救急車利用案内は、虫刺され後の全身じんましんと顔色悪化に加え、子どもの呼吸、意識、けいれんの異常を、すぐに救急車を呼ぶ目安としている。
こうした全身症状がなくても、赤みやかゆみが強い場合は皮膚科へ相談する。日本皮膚科学会は、軽い虫刺されでは市販のかゆみ止め外用薬も選択肢になる一方、赤みやかゆみが強い場合は医療機関での治療が必要になるとしている。乳幼児では市販薬の対象年齢が製品ごとに違うため、成人用を量だけ減らして使う判断は避ける。
虫よけ剤より先に肌の露出を減らす
厚生労働省は、蚊が多い屋外では、できるだけ肌を露出せず、虫よけ剤を使うよう案内している。衣類で覆える範囲を先に増やせば、薬剤を塗る皮膚も少なくなる。
虫よけ剤を使いにくい月齢では、蚊の多い時間や場所を避け、長袖・長ズボン、蚊帳を組み合わせる。国立健康危機管理研究機構が公開する診療Q&Aは、防蚊対策として、蚊が多い時間・時期・場所を避けること、長袖・長ズボン、就寝時の蚊帳、昆虫忌避剤を挙げている。虫よけ剤だけで防ごうとせず、物理的な対策を土台に置く。
ディート──生後6か月が使用の境界
国立健康危機管理研究機構の2026年版「蚊媒介感染症の診療ガイドライン」は、ディートを生後6か月未満の乳児に使わず、生後6か月以上2歳未満は1日1回、2歳以上12歳未満は1日1〜3回を目安とし、子どもには保護者の監督下で顔以外へ塗るよう示している。ディートでは生後6か月が最初の使用区分になる。
同ガイドラインは、ディートの有効時間は濃度に比例し、含有率が高いほど長時間の効果が見込まれるとしている。ただし、厚生労働省の高濃度製剤に関するQ&Aは、ディート30%製剤を12歳未満の小児に使わないよう表示事項を定めている。使用前に有効成分、濃度、対象年齢、1日の使用回数を同じ包装上で照合する。
イカリジン──年齢制限なしでも表示を優先
同ガイドラインは、イカリジンにはディートのような年齢制限がなく、小児にも使えるとしている。ただし「年齢制限なし」は、塗布回数や範囲が無制限という意味ではない。製品ごとの用法を読み、必要な場面に限って使う。
厚生労働省が高濃度製剤の表示事項として示したQ&Aでは、子どもが噴霧を吸い込まないよう、保護者の手にスプレーしてから塗り、子どもの手には塗らないよう求めている。目や口の周囲、粘膜、傷口を避け、皮膚に異常を感じたら使用を中止するとの注意もある。
刺された後の外用薬は別に選ぶ
虫よけ剤は刺される前に使う製品で、刺された後のかゆみ止めとは目的が違う。蚊に刺された皮膚反応は直後に出る場合と、1〜2日後に出る場合がある。日本皮膚科学会は、乳幼児期には刺されて1〜2日後に赤みやかゆみが現れる遅延型反応がみられ、反応には個人差が大きいと説明している。翌日に腫れたという経過だけで、感染や原因となった虫を決めない。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、「小児用」と表示された市販薬でも年齢によって使えない場合があるため、包装の用量欄を読み、薬剤師に子どもの年齢を伝えて使用可否を確かめるよう案内している。治療中、持病や常用薬がある、薬や食物でアレルギーを起こしたことがある乳幼児は、購入前に医師または薬剤師へ伝える。
虫刺され後の市販外用薬について、すべての有効成分を同じ月齢表で比較する国内の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。清涼感や商品名で選ばず、手元の製品の対象年齢、使用部位、使用上の注意を確認する。
購入前の五つの確認
1 月齢を確認する
生後6か月未満にはディートを使わない。イカリジンは国内資料上の年齢制限がないが、包装の対象年齢と用法を優先する。
2 有効成分と濃度を同時に読む
「虫よけ」という表面表示だけで決めず、ディートかイカリジンか、濃度はいくつか、12歳未満に使える製品かを確かめる。
3 対象害虫を確認する
同じ有効成分でも、承認された対象害虫は製品の表示で確認する。蚊への使用を想定するなら、効能欄に蚊の忌避がある製品を選ぶ。
4 保護者が塗る
子ども自身に噴霧させず、保護者が製品表示に沿って塗る。子どもの手、目や口の周囲、粘膜、傷口を避け、顔や首筋への使い方は製品ごとの指示を確認する。
5 刺された後の薬と混同しない
かゆみ止めは別の製品として対象年齢を確認する。乳幼児に使えるか判断がつかなければ、包装を薬剤師に示す。
よくある質問
生後6か月未満には、どの虫よけ剤も使えないのか
ディートは使わない。イカリジンには国内資料上の小児年齢制限がないが、月齢だけで決めず、包装の対象年齢と用法を確認する。長袖・長ズボン、蚊帳、蚊の多い時間や場所を避ける対策を先に組み合わせる。
濃度が高いほど蚊を強く避けるのか
同じ成分では、高濃度品は主に持続時間が長い。ディート30%製剤は12歳未満に使わないため、濃度を比較する前に対象年齢を見る。
「小児用」のかゆみ止めなら乳児にも使えるのか
商品名だけでは判断できない。小児用でも使用開始年齢が設定される場合があるため、包装の用量欄と添付文書を読み、薬剤師に月齢を伝えて確認する。
蚊に刺された翌日に腫れたら感染なのか
翌日の赤みやかゆみは遅延型反応でも起こるため、経過だけでは感染と決められない。赤みやかゆみが強い場合は皮膚科へ相談し、全身じんましん、顔色や呼吸、意識の異常があれば119番へ連絡する。
出典・参考資料
- 蚊媒介感染症(厚生労働省)蚊が多い屋外では肌の露出を減らし、虫よけ剤を使うという予防原則
- ジカウイルス感染症診療Q&A(国立健康危機管理研究機構)蚊帳を含む物理的な防蚊対策の補助資料
- 蚊媒介感染症の診療ガイドライン 第5.2版(国立健康危機管理研究機構)2026年6月26日時点の長袖・長ズボン、ディートの月齢別使用区分、30%製剤、イカリジン、傷口回避
- 防除用医薬品及び防除用医薬部外品の製造販売承認申請に係る手続きに関するQ&A(厚生労働省)高濃度製剤を子どもへ使う際の塗布方法と、目、口、手、傷口への注意
- こんな時は迷わず119へ(厚生労働省)虫刺され後の全身じんましんと顔色悪化、呼吸や意識の異常など、子どもの119番通報の目安
- 虫刺され Q12 虫刺されの治療はどうすればよいですか(日本皮膚科学会)市販のかゆみ止め外用薬の位置づけと、症状が強い場合の皮膚科受診
- 虫刺され Q4 蚊に刺されたらどうなりますか(日本皮膚科学会)蚊に刺された直後と1〜2日後に現れる皮膚反応、乳幼児でみられる反応
- 市販のくすりを使用する場合、どんなことに注意したらよいですか(医薬品医療機器総合機構(PMDA))子どもの市販薬で対象年齢、添付文書、持病、常用薬を確認する必要性