成人の予防接種は、子どものころの接種歴を土台に、年齢、持病、妊娠、仕事、渡航先を重ねて候補を絞る予防医療だ。子どもの定期接種を終えたことは、成人期の全ワクチンが不要になったことを意味しない。

厚生労働省は、予防接種法に基づく定期接種をA類とB類に分け、対象年齢外の接種、渡航前の接種、接種機会を逃した場合などを「任意接種」としている。成人全員が同じ種類を一度に受ける制度ではない。

国立健康危機管理研究機構(Japan Institute for Health Security、JIHS)の2026年6月1日版の20歳以上向け一覧には、定期接種と任意接種が年齢別に併記されている。まず母子健康手帳、予防接種済証、自治体や勤務先の記録を集め、記憶だけで「接種済み」と判断しない。

診察室で看護師から上腕にワクチン接種を受ける成人(イメージ)

接種後30分に注意 呼吸困難や反応低下は119番

接種後、特に30分以内に、全身の強いかゆみやじんましん、まぶた・唇の腫れ、持続するせき、ぜーぜーする呼吸、息苦しさ、繰り返す嘔吐、強いふらつき、呼びかけへの反応低下などが急に現れた場合は、アナフィラキシー(Anaphylaxis)の可能性がある。接種会場では直ちに職員へ伝える。帰宅後に息苦しさ、ぜーぜーする呼吸、顔色不良、反応低下があれば119番を要請する。医薬品医療機器総合機構(PMDA)の2026年改定マニュアルも、呼吸症状やショック症状がある場合は救急車を呼ぶことが大切だとしている

定期接種と任意接種──公費は同じ扱いではない

A類定期接種は対象者が居住する市町村で公費となる。B類定期接種は費用の一部に公費負担がある場合があり、無料とは限らない。成人のB類には季節性インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、高齢者肺炎球菌、帯状疱疹が位置づけられている。

任意接種は「不要」という意味ではない。定期接種の対象年齢から外れた人、子どものころに接種機会がなかった人、海外渡航者、感染した場合に周囲への影響が大きい職業の人などが、感染・重症化の危険と接種歴を踏まえて検討する区分だ。費用は原則として自己負担になるが、自治体や勤務先が独自に助成する場合がある。

65歳で重なる四つの定期接種

季節性インフルエンザは65歳以上と、心臓、腎臓、呼吸器またはHIVによる免疫機能に所定の障害がある60〜64歳が対象となる。厚生労働省は毎年度の秋冬に1回とし、接種しても感染を完全には防がない一方、発病や重症化を抑える効果があるとしている

高齢者肺炎球菌は65歳と、心臓、腎臓、呼吸器またはHIVによる免疫機能に所定の障害がある60〜64歳が定期接種の対象だ。2026年度から定期接種の製剤は23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチンから20価肺炎球菌結合型ワクチン(20-valent Pneumococcal Conjugate Vaccine、PCV20)へ変わり、対象者へ1回接種する。過去の肺炎球菌ワクチン歴を予約時に伝える必要がある。

帯状疱疹は65歳と、HIVによる免疫機能に所定の障害がある60〜64歳が対象となる。2025〜2029年度は経過措置として、年度内に70、75、80、85、90、95、100歳となる人にも定期接種の機会がある。生ワクチンと組換えワクチンでは回数、免疫抑制中の扱い、副反応が異なる。詳しい選択条件は帯状疱疹ワクチンの制度と二つの製剤を整理した記事で確認できる。

新型コロナは65歳以上と、心臓、腎臓、呼吸器またはHIVによる免疫機能に所定の障害がある60〜64歳を毎年度秋冬の定期接種対象とする枠組みだ。ただし、厚生労働省は2026年度の使用製剤と具体的な実施方法を本稿の執筆時点で「詳細が決まり次第」としている。昨年度の製剤や自己負担額を今年度へ当てはめず、自治体の告知を待つ必要がある。

20〜64歳は接種記録、妊娠、仕事、渡航先から確認

20〜64歳に一律で同じワクチンを当てはめる制度はない。麻疹・風疹混合(Measles-Rubella、MR)、破傷風を含むワクチン、B型肝炎、A型肝炎などは、過去の接種回数、感染歴、職業上の曝露、渡航先で候補が変わる。厚生労働省が示す現行のMR定期接種は、1歳と小学校入学前の計2回である。成人は2回分の接種記録があるかを確かめ、医療、学校、保育・福祉の職員や流行国への渡航者は、その記録を医師へ示して確認する。

1962年4月2日から1979年4月1日生まれの男性を対象とした風疹第5期は2025年3月末で終了した。期限までに抗体検査を受けて抗体が不十分だった人のうち、ワクチンの偏在で期間内に接種できなかったと自治体が認める場合は、2027年3月末まで特例対象となる可能性がある。新たに抗体検査を受ける全員へ延長された制度ではない。

ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus、HPV)ワクチンの国の定期接種対象は、小学6年から高校1年相当の女子であり、成人全体を対象とする公費制度ではない2025年3月末までに接種を始めた人へのキャッチアップ接種の経過措置も、残りを公費で受ける期限は2026年3月31日だった。過去の案内を現在の公費資格と取り違えず、成人の任意接種や自治体独自助成を調べる場合は、年齢、過去の回数、対象製剤を分けて確認する。

成人用ワクチンの小瓶と予防接種記録(イメージ)

妊娠中と妊娠を考える人

妊娠中はワクチンの種類によって扱いが異なる。MRワクチンは生ワクチンで、妊娠中には接種しない。妊娠を考えている人は、接種記録と抗体検査の結果を妊娠前の診察で示し、接種後に妊娠を避ける期間を含めて医師と予定を決める。

一方、RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus、RSV)の母子免疫ワクチンは、2026年度から妊娠28週0日〜36週6日の妊婦を対象とするA類定期接種となり、妊娠ごとに1回接種する。出生予定まで14日を切る場合の有効性は確立していないため、対象週数だけで自己判断せず産科で出産予定と照合する。

持病、免疫抑制治療、常用薬がある人

心臓、腎臓、肝臓、呼吸器、血液の病気、免疫不全、過去のけいれんや強いアレルギーがある人は、ワクチンごとに接種可否や観察方法が変わる。厚生労働省の季節性インフルエンザ案内も、これらの状態を接種前に医師へ相談すべき条件として挙げている。定期接種の年齢に当たることだけで接種可否は決まらない。

免疫抑制薬、抗がん剤、副腎皮質ステロイド、抗凝固薬などを使っている人は、お薬手帳と治療予定を接種医へ示す。生ワクチンを接種できない治療があり、不活化・組換えワクチンでも治療との時期調整が要る場合がある。接種のために常用薬を自己判断で中断しない。

子どもには成人用の一覧を当てはめない

本稿の年齢区分と確認手順は成人向けである。乳幼児、学童、思春期にはA類定期接種の対象期間と接種回数が別に定められており、成人の任意接種予定を流用しない。妊婦へのRSVワクチンも妊婦本人への接種であり、出生後の乳児へ同じ製剤を接種する制度ではない。

始め方──記録と自治体案内を一つの診察に持参

準備する情報は、接種記録、かかった感染症、過去の接種後反応、アレルギー、持病、常用薬、妊娠の有無、仕事と渡航予定である。65歳前後では自治体から届いた通知も加え、対象年度、指定医療機関、予約期限、自己負担額を確認する。複数のワクチンが候補に上がった場合の同時接種や間隔は、製剤と体調を踏まえて接種医が決める。

2026年度の全市区町村について、四つのB類定期接種の自己負担額、実施期間、任意接種への独自助成を一括で照合できる国の公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。国の対象年齢に該当しても、自治体の期間外や指定外の医療機関では扱いが変わりうるため、予約前に住民票のある市区町村へ確認する。

よくある質問

子どものころに接種済みなら、成人ワクチンは不要か
一律には決まらない。ワクチンごとに免疫の持続が異なり、追加接種の有無は接種回数、年齢、持病、仕事、渡航先で変わる。母子健康手帳や接種済証を確認し、記録がなければ医療機関へ相談する。

65歳になれば四つとも無料か
無料とは限らない。インフルエンザ、新型コロナ、高齢者肺炎球菌、帯状疱疹はいずれもB類定期接種で、費用の一部に公費負担がある場合がある。自己負担額と実施期間は自治体の通知で確認する。

50歳になれば帯状疱疹ワクチンを公費で受けられるか
50歳は製剤の承認対象となる年齢だが、国の定期接種は原則65歳である。2025〜2029年度は70〜100歳の5歳刻みに経過措置があり、50〜64歳の自治体独自助成は居住地で異なる。

接種記録が見つからない場合は最初から打ち直すのか
自己判断で一律に打ち直さない。生年、過去の制度、感染歴、職業や渡航予定によって確認方法が変わるため、分かる範囲の記録を持って医療機関へ相談する。