ミャンマー外務省は8月15日、バングラデシュから提供されたロヒンギャ避難民の名簿について、新たな審査結果を公表した。同省の声明によると、82万8,824人のうち7月31日までに42万6,545人を審査し、30万8,797人をラカイン州の元住民と認定した。受け入れは同州の安全状況が「より安定した時」に始めるとしており、日程は示していない。

42万6,545人全員の身元が確認されたわけではない。内訳は元住民とされた30万8,797人、資料から確認できなかった11万3,507人、同省が「テロ活動に関与した」と分類した4,241人で、合計が審査済みの人数になる。同省は声明でロヒンギャという名称を使わず、「ベンガル人」と表記した。バングラデシュ政府や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が同じ内訳を独自に確認した公表資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。

名簿審査は進んでも、帰還は動かず

UNHCRによると、2017年8月のミャンマー軍による弾圧後、75万人を超すロヒンギャがバングラデシュへ逃れ、同国の登録ロヒンギャ難民は2025年12月時点で100万6,000人を超える。それ以前から避難していた人も含む数字であり、今回の82万8,824人の名簿とは対象時点も範囲も異なる。

AP通信は、ミャンマーとバングラデシュが2018年に2年間の帰還手続きで合意したものの、計画は実現せず、2021年の国軍による政権掌握後に治安が悪化したと報じた。2023年からはアラカン軍とミャンマー軍がラカイン州の支配を争い、アラカン軍が州の大半を掌握している

バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプにテントが並ぶ風景(イメージ)
バングラデシュにあるロヒンギャ難民キャンプ(イメージ/Zlatica Hoke / Voice of America、パブリックドメイン、Wikimedia Commonsより)

「安全状況の安定」に具体的な基準なし

国連の「ミャンマー人道ニーズ・対応計画2026」は、ラカイン州で続く戦闘と安全上の危険が人道支援を妨げ、国連機関が国軍側の許可で直接入れる地域はシットウェに限られ、アラカン軍支配地域へのアクセスも制約されていると記録した。UNHCRも、ミャンマーへの自発的で安全な帰還を可能にする条件は限られたままだとしている。

バングラデシュ政府とUNHCRが2018年に合意した枠組みは、安全、自発的で尊厳ある帰還を原則とし、ロヒンギャが帰還を検討する前提として、法的地位と国籍、安全、基本的権利の具体的な改善を挙げた。元住民と認定された人数は、帰還を希望する人数でも、安全に移送できる人数でもない。

ミャンマー外務省の声明には、対象者一人ひとりの意思確認、帰還後の法的地位、居住と移動の自由、第三者による安全監視の具体策がない。「安全状況がより安定した時」という条件を誰が、どの指標で判断するかも明らかではない。

日本外務省は2018年、避難民の帰還には安全、自発性、尊厳の確保とUNHCRなど国際機関の関与が必要だとし、帰還後の安全確保や国籍審査について明確な方針を示すようミャンマー側に求めた。今回の名簿審査や受け入れ条件を日本政府が独自に確認した2026年8月の公表資料は見当たらない。

マレーシアの5,000人案──対象者を巡り説明が不一致

マレーシアを出発する5,000人の帰還案では、両政府の説明が食い違う。AP通信によると、アンワル・イブラヒム首相は対象者をロヒンギャと説明した一方、サイフディン・ナスティオン内相は「難民資格を持つミャンマー国民」と述べ、ロヒンギャとは明言しなかった。ミャンマー外務省のハン・ウィン・アウン局長は、対象はマレーシアの収容施設にいる、国籍確認済みのミャンマー国民に限られるとして、ロヒンギャ受け入れとの説明を否定した

マレーシア国家安全保障会議が8月9日付で掲載した政府説明では、ファハミ・ファジル報道官が、帰還後に迫害や生命の危険がある場合は移送せず、外務省が対象者の特定と安全面を審査すると述べた。対象者名簿、選定基準、移送日程は公表されていない。

バングラデシュの30万8,797人とマレーシアの5,000人は、別の名簿と交渉に基づく。前者はミャンマー政府が元住民と認定した人数、後者は対象者の属性さえ両政府で一致していない計画上の上限であり、いずれも実際に帰還した人数ではない。

よくある質問

ミャンマーが確認したのは30万8,797人か、42万6,545人か
42万6,545人は審査を終えた総数である。そのうち30万8,797人をラカイン州の元住民と認定し、11万3,507人は資料から確認できず、4,241人は「テロ活動に関与した」と分類した。

元住民と認定されれば、すぐに帰還するのか
帰還日は決まっていない。ミャンマー政府はラカイン州の安全状況がより安定してから受け入れるとしているが、判断基準や移送方法、帰還後の保護態勢を示していない。

マレーシアから帰還する5,000人はロヒンギャなのか
確定していない。マレーシア首相はロヒンギャと説明したが、同国内相の説明はミャンマー国民という表現にとどまり、ミャンマー外務省当局者はロヒンギャが対象だとの説明を否定した。

帰還が安全だと判断する国際的な目安は何か
日本政府とUNHCRは、安全で自発的かつ尊厳ある帰還を原則としてきた。本人が十分な情報を得て自由に選べること、帰還後の安全や法的地位が守られること、国際機関が関与できることが判断材料になる。