ユダヤ系コメディアンのフィリップ・サイモン(Philip Simon)は、イスラエルの人質への言及を含むSNS投稿を理由に2025年のエディンバラ公演を取り消され、会場運営会社を提訴した。会社側は2026年8月に英国平等法に反する差別を認め、裁判所は実体審理の準備費用に通常より高い算定基準を適用した。

SNS投稿を調べ、開幕直前に公演中止

サイモンは2025年のエディンバラ・フェスティバル・フリンジで、一人舞台《Shall I Compere Thee In A Funny Way》をバンシー・ラビリンス(Banshee Labyrinth)で上演する予定だった。ところが会場は開幕直前、同氏のオンライン上の発言が会場の立場と相いれないとして公演を取り消した。

喜劇専門誌Chortleは会場が作成したSNS投稿の資料を確認し、パレスチナ市民への連帯を示す人々にイスラエルの人質への言及を求めた投稿、イスラエルによるパレスチナ人拘束者の釈放条件を批判した投稿、ガザへ向かった船団を巡る冗談、ロンドンのトラファルガー広場で開かれた集会への参加などが含まれていたと報じた。会場は当時、投稿や行動が人道上の侵害に関係する集団の言説や象徴と重なると説明した。一方、サイモンはイスラエル政府の行動を支持したことはなく、人質解放と和平を求めてきたと反論した。

会社側が宗教・信条を理由とする差別を認める

サイモンは会場を運営するMorrison Bros Ltdをエディンバラ・シェリフ裁判所(Edinburgh Sheriff Court)に提訴し、宗教・信条を理由とする違法な差別を受けたと主張した。8月17日の法廷を伝えたBBCの報道によると、双方は共同合意書(joint minute)で会社側の差別責任を確認し、サイモン側代理人は責任の争いが原告に有利な形で解決したと説明した

争いが残ったのは費用だった。ロデリック・フリン(Roderick Flinn)判事は、会社側が8月5日まで差別を認めなかった対応を不合理と判断し、予定されていた実体審理の準備にかかった費用を、通常より高い「ソリシター・クライアント」基準で算定するとした。会社側代理人は、訴訟前に解決できたとは限らず、発生した費用のすべてが責任の争いに関係するわけではないとして、費用判断の先送りを求めていた。

サイモンは審理後、以前の和解提案には謝罪、反ユダヤ主義に関する研修、関連慈善団体への寄付が含まれていたと明らかにし、金銭が訴訟の目的ではなかったと述べた。Chortleは、損害賠償額は後に決まると報じている。これらの和解条件はサイモン側が提案した内容であり、裁判所が会社側に命じた措置ではない。

平等法が守る「宗教・信条」

英国平等人権委員会(Equality and Human Rights Commission、EHRC)の法定ガイダンスは、2010年平等法(Equality Act 2010)が保護する「宗教・信条」にユダヤ教を含む宗教、哲学的信条、それらを持たない立場を含めている。オンラインで宗教的・哲学的な見解を表す行為も、根底にある信条と十分に近く直接的な関係があれば、その表明に当たりうる

ただし、イスラエルやガザを巡る政治的発言がすべて自動的に同法の保護対象になるわけではない。本件で公表が確認できたのは、会社側がサイモンへの宗教・信条を理由とする違法な差別を認めたという法廷報道までだ。訴状、当事者間の合意文書、理由を示した公刊判決文は確認できず、裁判所がユダヤ人としての宗教的帰属、個別の信条、その表明との関係をどう整理したかは明らかになっていない。

別会場の中止は今回の認諾の対象外

サイモンは同じ2025年のフリンジで、ユダヤ系コメディアンが出演する《Jew-O-Rama》の司会も予定していた。別会場Whistlebinkiesはスタッフの安全上の懸念を理由に同公演を取り消し、コメディアンのレイチェル・クリーガー(Rachel Creeger)が予定していた《Ultimate Jewish Mother》も同時に会場を失った

Whistlebinkiesによる中止は、Morrison Bros Ltdを被告とした今回の訴訟とは別の出来事だ。バンシー・ラビリンス側の認諾を、別会場の判断に対する裁判所の認定と読むことはできない。2026年にはサイモンが別の会場で《Jew-O-Rama》を再開したことをChortleが伝えている。

確定した範囲と残る手続き

確定したのは、Morrison Bros Ltdがサイモンへの対応を2010年平等法に反する差別と認め、実体審理の準備費用に高い算定基準が適用されたことだ。責任の有無を争う実体審理は行われておらず、この事件を他の公演中止に直接当てはめる公開判例は示されていない。損害賠償額と訴訟費用の総額も、本稿の執筆時点で確認できていない。

よくある質問

会場運営会社は何を認めたのか
Morrison Bros Ltdは、2025年にサイモンの公演を取り消した対応が宗教・信条を理由とする差別として2010年平等法に反すると認めた。会社側の認諾による決着であり、責任の有無を巡る実体審理後の判決ではない。

どの投稿が公演中止の理由とされたのか
会場がChortleに示した資料には、イスラエルの人質への言及を促す投稿、パレスチナ人拘束者の釈放条件への批判、ガザへ向かった船団を巡る冗談、トラファルガー広場の集会への参加などが含まれていた。サイモンは、イスラエル政府の行動ではなく、人質解放と和平を支持してきたと反論した。

賠償額は決まったのか
確認できていない。裁判所は実体審理の準備費用に通常より高い算定基準を使うとしたが、損害賠償額と費用総額は公表資料で確認できない。

他の会場も同じ扱いを受けるのか
今回の認諾はサイモンとMorrison Bros Ltdの争いを解決したもので、理由を示した公刊判決ではない。投稿内容、契約関係、中止までの手続きが異なる別件への法的効果は、この結果だけでは判断できない。