高齢者の機能評価は、検査値に加え、立ち上がる、歩く、食事を用意する、薬を管理する、外出するといった日常の動きを捉え、必要な医療・介護・生活支援へ結ぶ評価である。病気の有無を調べる検査とは役割が異なり、握力や歩行速度の一つの数値で原因や将来の失能を決めるものではない。

見逃したくないのは、以前より椅子から立ちにくい、歩幅が狭くなった、買い物を避けるようになった、薬を飲み間違えるといった時間的な変化だ。本人が続けたい生活を聞き、同じ条件で再評価して初めて、介入が実生活へ届いたかを確かめられる。

日本の質問票は健診・医療・介護情報と組み合わせる

厚生労働省の後期高齢者向け質問票は、健康状態、心の健康、食習慣、口腔機能、体重変化、運動・転倒、認知機能、喫煙、社会参加、ソーシャルサポートの10類型15項目で構成される。歩く速度が遅くなったか、過去1年に転んだか、週1回以上外出しているかといった質問を含む。

同省の資料は、回答を健診・医療・介護情報と併用し、必要な保健事業や医療機関の受診へつなぐ設計を示す。質問票は健康状態を総合的に把握する問診であり、一つの回答だけで病名や要介護状態を決める資料ではない。

急なふらつきや片側の脱力は評価を待たず119番

急にふらついて立っていられない、顔の半分が動きにくい、ろれつが回らない、突然片方の腕や脚に力が入らない、急な息切れや呼吸困難がある場合は、握力測定や定期健診を待つ段階ではない。厚生労働省は、これらを高齢者が迷わず119番を呼ぶ症状として挙げている。意識がない、普段どおり話せない、呼吸がおかしい場合も直ちに救急要請へ切り替える。

6領域と生活環境を一緒に見る

国立長寿医療研究センターは、世界保健機関(WHO)の高齢者のための包括的ケア(Integrated Care for Older People、ICOPE)が扱う内在的能力を、移動能力、活力、視力、聴力、認知機能、心理機能の6領域と説明している。実際の生活動作は本人の能力だけで決まらず、杖や住環境、移動手段、家族や地域の支援にも左右される。

WHOが2025年に公表したICOPE第2版は、内在的能力の低下と社会的支援の必要性を見つけ、地域の事情に合わせた個別ケア計画を作る経路を示している。短い確認で終わらず、詳しい評価、介入、経過の監視へ進む考え方だ。6領域の具体的な確認手順は、高齢者の「6つの内在的能力」を確認するICOPEの記事で整理している。

評価では、椅子からの立ち上がり、歩行、方向転換、階段に加え、意図しない体重変化、食欲、かむ・飲み込む動作、見え方、聞こえ方、記憶、気分を確認する。買い物、調理、入浴、金銭と服薬の管理、交通手段、家族の介助量も、生活への影響を示す情報になる。

高齢者の6つの機能領域から、医療、リハビリテーション、栄養、地域支援へ進む流れを示した図

握力と歩行──基準値は診断の代わりにならない

アジア・サルコペニア・ワーキンググループ(Asian Working Group for Sarcopenia、AWGS)の2019年基準は、低握力を男性28キロ未満、女性18キロ未満、低い身体機能を6メートル歩行で秒速1.0メートル未満などとした。これは2019年の評価基準であり、握力か歩行速度のどちらか一つだけでサルコペニア(sarcopenia)を確定する値ではない。

診断の枠組み自体も更新されている。AWGSが2025年に公表した原コンセンサスは、低筋量と低筋力の同時存在を診断要件とし、身体機能を診断要件から結果指標へ位置付け直した日本老年医学会雑誌の2026年解説も、この変更を2025年更新の要点として挙げている。過去の歩行速度基準を、現在の確定診断と同じ意味で読むのは避ける必要がある。

握力は測定器、姿勢、痛み、その日の体調で動き、歩行速度は測定距離、履物、補助具、関節や神経の状態、視力、認知、服薬の影響を受ける。追跡では測定器、方法、補助具、日時を記録し、数値とともに「近所の店まで歩ける」「手すりなしで椅子から立てる」といった生活動作の変化を残す。

男女別の握力と6メートル歩行速度の2019年基準を並べた図

服薬の見直しは薬の数合わせではない

厚生労働省は2026年7月31日、高齢者のポリファーマシー(polypharmacy)対策として、医薬品適正使用指針と病院・地域向け手引きの新たな普及啓発資料を公表した。ポリファーマシーは薬が多いという数の問題に限らず、薬物有害事象、飲み間違い、服薬継続の難しさにつながる状態を指す。

2026年3月31日確定版の概要は、認知機能、日常生活動作、栄養、生活環境、他院の処方、市販薬、サプリメントまで含めた高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment、CGA)を使い、重複処方、腎機能低下、薬物相互作用などを多職種で確認する流れを示す。ふらつき・転倒、記憶障害、食欲低下などが現れた場合は、薬剤との関係も確認の対象になる。

新しい薬の開始や変更後に眠気、ふらつき、食欲低下、服薬の混乱が生じた場合は、薬名、開始日、症状が出る時刻を記録し、薬袋とお薬手帳を医師や薬剤師へ示す。医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、処方薬を自己判断で中止・増減せず、複数の医療機関や薬局を利用する人は市販薬を含む全ての使用薬を伝えるよう案内している

評価後の相談先と追跡を先に決める

歩行、体重、認知、気分、服薬の変化が続く場合は、かかりつけ医へ経過を伝え、必要な診察やリハビリテーション、栄養、口腔、眼科・耳鼻咽喉科、薬剤師などの評価へつなぐ。生活や介護の困り事は居住地の地域包括支援センターが窓口になる。厚生労働省は、地域包括支援センターを市町村が設置し、高齢者の総合相談、介護予防に必要な援助、地域の支援体制づくりを担う機関と位置付け、都道府県別の案内を掲載している

日本でWHO版ICOPE、握力・歩行、服薬評価を一つの全国共通手順で運用していることを示す公的資料は、本稿の執筆時点で確認できていない。自治体や医療機関で利用できる評価と紹介先は異なるため、検査名を指定するより、困っている生活動作と変化の経過を相談窓口へ伝える方が次の支援を選びやすい。

  • 本人の目標:安全に入浴する、近所の店まで歩く、自分で薬を管理するなど、生活動作で書く。
  • 変化の起点:始まった日、新薬、入院、感染症、転倒、外出減少との前後関係を残す。
  • 測定条件:握力計、歩行距離、補助具、履物、痛み、測定日時をそろえる。
  • 担当と期限:紹介先、連絡担当、介入内容、次回の評価日を決める。

介入後の変化を同じ方法で追う

厚生労働省の「身体活動・運動ガイド2023」高齢者版は、有酸素運動、筋力、バランスなどを組み合わせた多要素運動を挙げる一方、整形外科的な障害、転倒、持病悪化のリスクがある人では、年齢と健康状態に応じた量の見極めが必要だとしている。機能が低下した人へ一律の回数や強度を当てはめる資料ではない。

厚生労働省の同資料は、多要素運動の量・強度と健康効果の関係には追加の根拠が必要だとしている。運動を始めたという記録で終えず、転倒、痛み、立ち上がり、外出、本人の生活目標がどう変わったかを、同じ測定条件で確認する。

服薬の見直しにも経過観察が欠かせない。厚生労働省の2026年版概要は、中止・変更後の病状悪化や新しい薬物有害事象を確認し、他職種で情報を共有する流れを示す。薬を減らしたという件数ではなく、ふらつき、飲み間違い、生活動作がその後どう変わったかを追う。

機能の確認、詳しい評価、個別介入、生活目標、再評価を循環させる流れを示した図

小児・妊娠中の人、持病・常用薬のある人

高齢者向けの握力や歩行の基準を小児、妊娠中の人へ当てはめない。慢性疾患、関節痛、心肺機能の低下、認知症がある人や薬を常用する人では、安全な運動量、測定結果の意味、薬の変更条件が個別に異なる。成人一般の目安だけで判断せず、病状と治療内容を知る医師、薬剤師、リハビリテーション専門職へ確認する。

家族が受診前にそろえる情報

「最近弱った」という一言を、時系列の事実へ置き換える。歩行、立ち上がり、転倒、食欲と体重、買い物、入浴、服薬管理について、いつから、どの場面で、どれほど介助が増えたかを記録する。本人の話と家族の観察が異なる場合は、どちらかを消さず両方を伝える。

受診時は、処方薬、市販薬、漢方薬、サプリメントの現物か一覧と、お薬手帳を一つにまとめる。新しい薬や用量変更と症状の時間関係、利用中の医療・介護サービス、住宅内の段差や手すり、本人が取り戻したい生活動作も示す。評価後は、紹介先、担当者、連絡方法、再評価日を記録する。

よくある質問

握力が男性28キロ未満、女性18キロ未満ならサルコペニアなのか
その値だけでは確定しない。これはAWGS 2019が示した低握力の基準で、診断には筋肉量などを含む評価が要る。AWGSは2025年に診断枠組みも更新した。

6メートル歩行が秒速1.0メートル未満なら失能するのか
将来の失能を個人単位で確定する値ではない。2019年基準の身体機能指標であり、測定条件、痛み、病気、補助具、日常の歩行変化と合わせて読む。

薬が多ければ家族が一部を止めてよいのか
自己判断では止めない。薬の数だけを減らすと病状が悪化する場合がある。全ての薬と症状の経過を医師・薬剤師へ示し、中止、減量、継続の判断とその後の観察を依頼する。

機能評価は何カ月ごとに行うのか
全員に共通する一つの間隔はない。使用した評価法、紹介先、介入内容、再評価日を記録し、医療・介護チームが病状と目標に合わせて決める。急なふらつき、片側の脱力、ろれつの異常、呼吸困難は予定日を待たず119番へ連絡する。